title:オヤジからのキラーパス

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Feeded by morning star
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新丸子に、昔から地元の人に愛されてきた食堂がある。「食堂」と名乗ってはいるが、昼間から一杯呑んでいる人でにぎわっている、半分呑み屋のような、というかほとんど呑み屋ともいえる店だ。先日、久しぶりにこの店に顔を出してきた。

ハムエッグでハイボールをやっていると、テーブルの向かい側に地元の人と思しきご老人が座った。ステテコにランニングシャツといういでたち。いかにも近所からぶらりと一杯ひっかけにやってきたという風情だ。

ほどなく、日本酒と冷やしトマトがじいさんのもとに届く。爺さんは卓上の塩をトマトにたっぷり目にかける。トマトの切り口には、食塩の粒が浮いている。その塩辛そうなトマトを口元まで持ってきたとき、箸からポロリと落ちた。どうやら爺さん、酔いのせいではなく、そもそも手元が覚束ないようである。爺さんは、テーブルに落ちたトマトを皿の上に戻すと、またもトマトに塩を振り始める。「そいつは相当しょっぱいぞ…」という俺の心配をよそに、今度は手づかみでむしゃむしゃとトマトを食べ始めた。そんな嗜好でよくぞそこまで長生きできたものである。

見ていると、爺さんは歯の方もあまり調子がよろしくないようで、どうやらトマトの皮が噛み切れない様子。仕方なく、柔らかな果肉部分だけをしゃぶるように食べて、皮の部分を残していく。途中、日本酒をもう一本追加し、トマトを食べ終わったときには、皿の上に1個分のトマトの皮が残されていた。

爺さんがお会計を頼む。お銚子2本に冷やしトマトで900円。かわいらしいビニールの財布から折りたたんだ千円札を取り出し、おつりの百円玉を大切そうに受け取ると、千鳥足で帰って行った。

ところがこの日、爺さんの姿を見たのはそれが最後ではなかった。爺さんの残していった残骸がきれいに片付けされたころだった。再び店に戻ってきて、店員を呼ぶ。「ここに100円落ちてなかったかね」。「何もなかったよ」と女性店員。爺さん、100円玉はさっき財布の中に入れてたよ…。

どうしても諦めきれないという表情を浮かべながら帰っていく、爺さん。しかし、その夜はまだ続きがあった。数分後、爺さんは三たび俺の眼前に現れた。今度は、鍵は落ちてなかったかと聞いている。100円同様、鍵もあたりには見当たらない。先ほどと同じようにとぼとぼと帰りかけた爺さんが入り口近くで叫ぶ。「あった!」。掲げた手にはキーホルダーが握られている。どうやら入り口を開けるときに、傍らのテーブルの上に鍵を置いて行ってしまったようだ。

とんだ爺さんに遭遇した夜だったが、不思議とそんなに不快ではなかった。おれはよそ者。爺さん、ここはあんたの店だ。いろいろあったけど、おつりの100円はちゃんとあんたの財布に入っているよ。鍵も見つかってよかったね。今日も、悪いことはひとつも起こらなかったんだよ。いつかまた会えるかな。お達者で。





Feeded by morning star
【2013/08/16 17:04 】 Drinking | コメント(2) | トラックバック(0) |

morning starさま
爺さんもだけど、貴方もし合わせそうです。いいお話ですね!

Returned by isshy #-|URL|
【2013/08/24 17:01】[ 編集 ]

isshyさんへ

私が幸せかどうかはともかく、
あの憎めない爺さんの毎日が、
つつがなく、幸せであることを
願わずにはいられませんでした。

Returned by morning star #VizADBpE|URL|
【2013/08/26 16:40】[ 編集 ]












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